>初音ミク 6th Anniversary ~8月31日はミク誕生祭~ 特番&ミクパ&セレクション曲
ざっくりメモ
長谷川唯(MC)、小林オニキス、伊藤博之、佐々木渉、剣持秀紀(敬称略)

小林:クリプトン社とヤマハ社が一緒に仕事をするようになったきっかけは?
伊藤:規模は違いますが、同じ業界、DTMを扱っているということで接点がありました。当時、着メロ業界が集まる機会も増えてきました。当社は着メロのコンテンツも作っていて、ヤマハさんはMAチップを作っていたため、半導体部署とのやりとりする機会もありました。そんな中でヤマハさんから「人間の歌声を合成する技術があって」という話を聞かされました。クリプトンはソフト音源というニッチな製品を扱っていて、コーラスは可能でした。しかし、歌詞を歌わせることはできなかったので、興味を引きました。
剣持:2000年の3月からDaisy(デイジー)という名前で開発を始めました。2年かけてプロトタイプのプロトタイプ的なものを作りました。クリプトン社を着メロでつながりで紹介していただいて、札幌のオフィスを訪問したのが、2002年7月16日。その時に持っていた資料があります。

佐々木:Daisyの資料です。一番最初のボーカロイド関連のイラストです。初音ミクのご先祖様ですね。

小林:これがパッケージだったかもしれないわけですね(笑)
剣持:当時は、歌声合成の他、歌唱合成という言い方もしていて、揺れていた時期でした。右が出張報告書になります。当時はまじめに出張報告書を書いたことに驚きました、私(笑)。今の状況を予見するような内容もあります。当時まだ、プリミティブなところで音の繋がりがちょっとおかしなところがあったりしたというもの(エンジン)ですね。
佐々木:今日は特別に当時のDaisyの音声を持ってきてもらっています。
剣持:2002年7月16日にお持ちしたデータをそのまま。
(Daisyによる"Fly to The Moon"の演奏)
一同:おおーっ。
佐々木:これが今残っているVOCALOID系の音声資料の中で一番古いものですか?
剣持:2000年当時のもっと古いのがあるんですけど。2000年の7月ぐらいの。子音がなかなか出せなくて、一番最初に「あーさー」と合成した音声が、探せば出てくるかもしれません。そこのからいろいろな声がじょじょになめらかに出るようになりました。
小林:Daisyの由来は、アメリカで、1960年代にベル研究所で一番最初に歌わせたのがDaisy Bell(デイジー・ベル)という曲だった…
剣持:それをリスペクトしてDaisyというプロジェクト名をつけました。
小林:ロマンチックな話しですね。
剣持:それでクリプトンさんを訪問して、ZERO-Gさんなどを紹介していただいて、海外展開で協議をすることになり、技術発表をしたのが2003年2月26日です。私の誕生日の次の日です。名前がVOCALOIDに決まったのは、発表の2,3週間前だった記憶があります。名前を決めるのに非常に苦労して…当時別の名前でずっと進行中だったのですが、商標の問題で、ある国でNGが出てしまい、どうしようという中で3番目ぐらいの候補だったVOCALOIDが、一気に上にあがりました。VOCALOIDが3番目ぐらいの候補に落ちていたのは、クラウスさんに「VOCALOIDもあまり良くないんじゃない」と言われたためです。
伊藤:名前どうしようという議論を、確か札幌の南1条西8丁目ぐらいに居酒屋があるんですよ。座敷だったんですね。そこで僕と剣持さんと、うちとヤマハさんの担当者と、あとBEST SERVICEというドイツのソフト音源作っているメーカーがありますが、そのクラウス社長が来ていて、みんなで相談したんですね。そのときに、なんとなくVOCALOIDでいいんじゃないか的な雰囲気になった記憶があります。そのときクラウスの足がしびれてしまい、次の週に行く予定だったカナダの登山に行けなかったと、後で文句言われた記憶があります。
佐々木:そのときDaisyの商標が通っていたら…
伊藤:Daisyになってましたね。
佐々木:オニキスさんも、ボカロPじゃなくて、DaisyPに(笑)
小林:なんかピンとこない。そう思うとVOCALOIDという名前は正解だったんですかね。
剣持:正解だっと思いますね。
小林:エビイモという名前があったという話も聞いたことありますけど。
剣持:当時研究所があったところが豊丘村だったんですが、そこの名産で海老芋という、エビの皮のように見えるシマシマのあるサトイモがあって、これを名前にできないかと商標調査をかけましたが、やっぱりNGでした(笑)。日本国内でよくても海外で撃沈するのはよくある話ですね。
小林:海老芋Pという方、いらっしゃいそうですけれど(笑)。
小林:で、Daisyをクリプトンさんも触って…
伊藤:最初はもう聴かせていただくだけで。で、不完全なのが良かったんでしょうね。一応人の声じゃないですか。めちゃめちゃ生々しかったら、そんな感じはしなかったと思うんですけど、新しい可能性を広げるというか、基本ナチュラルなんですが、ときどきボコーダーぽくなるところがあると、あ、この人は人じゃないんだと改めた感じるというか、割りとそういう部分が新しい可能性なのかな、と思いますね。
佐々木:VOCALOID1のころの話ですね。MEIKOとKAITOなんですが、これが初音ミクがリリースされるよりかなり前のパンフレットです。キャッチとして「パソコンが歌う。最初のコードネームは、MEIKOはHANAKOで、KAITOはTAROということですね。この当時のKAITOの声があるということで、流して下さい。

(KAITOによるデモ曲)
佐々木:音の伸びのところの色気が強いですよね。
小林:TARO兄さんのことからいい声ですよね。で、これ以前に実は、海外で出てるんですよね。
剣持:ZERO-GさんからLEONとLOLAと、ちょっと遅れてMIRIAMというVOCALOID1製品をリリースしていただきました。

伊藤:最初ね、VOCALOID1のデモ曲を、ZERO-Gに何の先入観も与えずに、これってどう思うってメールに添付して送ったんですよね。で、「これは誰の歌声だ?」って。「(当時、クリプトン社の海外担当だった)シオリか? 誰が歌っているのかわからないけど」みたいな話で。人っぽく聞こえたんでしょうね。
佐々木:いきなり発表前のVOCALOIDの音声がメールで届くって、かなりファンタスティックというか、テロですよね。
伊藤:びっくりさせたくて。答えを言ってから聴かせるとおもしろくないので。けっこうそういうイタズラってしませんでした?(笑)
佐々木:僕も最初、これでピザを注文する人は増えたらどうしよう…みたいな。
剣持:それを切っ掛けにZERO-GさんとBEST SERVICEさんを紹介していただいて、ZERO-Gさん、イギリスのロンドンのパディントン駅からかな。特急で3~4時間乗り続けて、エクセターという街で降りて、そこに迎えに来ていただいたのを覚えてますけどね。東洋人が物珍しがられる、そんなところでしたけどね。
伊藤:余談ですけど、ZERO-Gのオフィスにロボットが飾ってあるんですよね。これなんだ?って聞いたら、「オレが昔DJでレイブでコレ着てやってたんだ」って。
小林:ZERO-Gもロボットのような近未来なものに興味がおありだったんですね。
佐々木:コンピュータ音楽やっている人で好きですよね、SFとか、アニメとか、ガンダムとか。ZERO-G以外にも営業はされてたんですよね。
伊藤:ひとしきり紹介して、ひとしきり剣持さんのほうで行って、ひとしきり玉砕されていったという(笑)。いくつか行くんですけど、やっぱり機械っぽさとか、人間のエモーションな歌声と比べたときに、これって市場性どうなんだという話が出ちゃうんですよね。
小林:そもそもヤマハさんとしては、日本よりも海外に打ち出していこうという感じだったんですか?
剣持:やっぱりそういうとこから勝負かな、と漠然としたものがありましたね。思い込みかもしれませんが。
小林:こういうのは海外に受けるんじゃないかなという?
剣持:そうですね。
小林:そういう感じでまず海外から展開していったうえで、後にクリプトンさんからMEIKOとKAITOがリリースされて、という形につながるわけですね。
伊藤:MEIKOもKAITOも、もともとヤマハさんで録音していたデータがありまして、それをブラッシュアップして、せっかくの資産なんでってことで、商品化したんですよね。MEIKOさんはMEIKOさんなんですが、KAITOはMEIKOから遅れること1年半ぐらい後にリリースするんですけど、MEIKOという言葉の雰囲気と字面的に合わせたかったんですよ。で公募したんだよね、ブログでね。
佐々木:ブログで募集して、で、後にボカロPとして有名なshu-tさんが、たまたまKAITOっていう名前で応募されて、じゃ、これにしようかって会議で社長と打ち合わせして。
伊藤:もちろん、shu-tさんの名前はそこには無かったんだけど。
小林:あんまり海外版のVOCALOIDが先にあったって知られてないですよね。
伊藤:出したときセンセーショナルというか、メディアでも取り上げられていましたよね。
剣持:そうですね。Sound On Soundとかでも取り上げられていたとか。ただ、1つ酷評されたのもありましたね。当時合成しながら再生がうまく動かなかったりして、実質、Ver.1.0の一番はじめの段階だと、レンダリングして合成しかできない状態で、1分の曲だとけっこう長い時間待って、で、出てくる声が調教しない状況だとロボットっぽい声になってしまうということで。その後改良はしていったんですけれども。酷評されたときはかなりショックを受けましたけどね。
伊藤:DTM業界って割りと格好とかスタイルとか、そいういうものから入るケースが多くて、パッケージも近未来的なデザインとか、GUIとかもエイリアンのコックピットみたいな。かっこ良くなければ、それだけでもう"嫌い"みたいな、あるじゃないですか。
小林:VOCALOID1の編集画面はVOCALOID2と違ったんですよね。

佐々木:当時ヤマハさんが開発されてたSOLっていう音楽制作ソフトに近い感じですね。
剣持:あちらにテイストを合わせたというのはありますね。
小林:出てくる声の傾向もVOCALOID1と2とでは違ってるとか。
剣持:もう合成方式が全然違ってまして、原理的にハスキーな声が出しにくい合成方式だったんですね。倍音が高いところまで立っているような、て綺麗な波形の場合はわりとうまく再現できるんですが、ちょっとハスキーな成分が入ってくると、変に息の成分が分離してしまったりとか、高域があるところで落ちてしまったりとか、VOCALOID1にはそういうところがあります。
佐々木:ただ、そういった部分を補うためのレゾナンスとか、そういったところが、それはそれで使える機能で、その部分が好きで、VOCALODI1のほうがおもしろいって言うボカロPの方も何人か…。
佐々木:レゾナンスってどんな機能なんですか?
剣持:いわゆるフォルマントのところで、あるスペクトルを表現している部分があるんですが、それをユーザーさんが外からいじることができるようにして。合成方式上、VOCALOID1のときには、そのようなことが可能でしたので。VOCALOID2以降は原理的に難しいということで、そこのところは無いのですが。もともとある声から、ちょっと別の声を作り出すことが可能な、そういうところですね。
小林:これからは現在のお話なんですけど。今日はたまたまお誕生日の方がいるということで、初音ミクさん。おめでとうございます。
長谷川:今日はお誕生日ケーキが用意されています。火を是非、伊藤さんよろしくお願いします。

伊藤:本人がいないから、いつも推されるけど、絶対がっかりだよね(笑)。すいません、代表させていただきます。吹けばいいですか?

一同:おめでとうございます!
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